鴛鴦物語(おしどりものがたり)

その夜のことです。どこからともなくやってきた女の人が、殿様の枕元に立ちました。
「殿様、殿様。殿様は、私の大事なあの人を、射殺してしまいましたね。あの人は、私をかばって・・・・・・・・・。」
 殿様は、夢から覚め、思わず、刀をとって、起きあがりました。
「なあんだ、夢だったのか。」
 殿様は、べつに気にもかけませんでした。

ちょうど一年経った日のことです。
殿様は、去年と同じところで、また、一羽のオシドリを射止めました。
  見ると、胸のあたりが、ふくらんでいます。変に思って調べると、羽根の中から、あの雄のオシドリの頭が、出てきました。
「殿様、この頭は、あの時、私が切って、庭の隅に放っておいたものです。」
「うん。そうじゃ。あの夜、わしの夢に現れてな。その時、持って行ったに違いない。それにしても、あれから、ずっと、胸に抱いていたのは・・・・・・・・・。」
 殿様は、いたわり合うオシドリの愛情に、心を打たれました。

さっそく、お城の中にお寺を建て、二羽のオシドリを、弔いました。

<<お話の舞台>>
 下之郷の天桂寺には、オシドリ塚があります。また、寺の建物の中には、オシドリを射落とす絵や夢に現れた女の人の絵などが、色鮮やかな襖絵として残されています。襖絵の正面には、昔、村にあった、鴛鴦寺(オシドリ寺)のご本尊が祀られています。

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